十一月も半ばを過ぎ、紅葉に彩られた山道は距離感を短縮してくれるのか、宇治市内から車で三十分ほどの宇治田原の郷は近く感じられました。
国道307号線を信楽方面へ向かうと、田園風景が広がり心地よいドライブです。
総合文化センターの付近に柿屋があると聞いていたので、もう柿が干してあるのではと探しました。田んぼの中にそびえる柿屋はすぐに目にとまりました。太い丸太で組み立て、四段組みの竹製の棚でしつらえた小屋がどっしりと構えられ、屋根は藁で美しく葺かれていました。古老(ころ)柿作りの作業はまだ始まったばかりの様子で、柿は最下段の棚にほんの少しだけ並んでいました。

「郷の口」の信号まで戻り、くれどき市が立つ猿丸神社に隣接するJA駐車場で一休み。菊花展が催されたのか、テントの中には賞の札がついた鉢植えの大菊が美を競い眼を楽しませてくれました。

郷の秋に惹かれて南東へ車を走らせると、ほどなく山の稜線に沿って深緑色の茶畑が一面に広がる美しい風景に出合いました。この地が宇治茶の生産地でもあったことを再確認しました。ここの田んぼでも柿が少々干された大きな柿屋を発見。やがて柿屋いっぱいの古老柿が陽を浴びて眩しく輝く光景を想像しながら国道へと降りて行きました。
登りとは違う小道を通ったのか、偶然にオレンジ色の柿が床几のような台に広げられた民家に遭遇しました。弾む心で庭に入れてもらうことに。そこは立川の前田さんのお宅でした。

南を受けた日当たりのよい納屋の入り口に腰を据えて柿の皮むきに精をだしておられる奥さんにカメラを向け、作業の邪魔にならないかと気遣いながらも次々と問いかけてしまいました。手を休めることなく笑顔で気軽に応えていただきました。
「この機械はユニークですね?」
「はい、これは機械工場で働く親族が作ってくれた家だけの特別な機械ですよ」

「柿渋で黒く染まった機械を相手に、軍手をはめてピーラーを斜めに持ち、小さな
鶴の子柿を機械の先端の二本の槍先に突き刺して制止させるや、瞬く間にフル回転させて皮を薄くむいていく、その見事な技に見とれてしまいました。
「何年間の修行でこんなに上手に皮むきができるのですか?」
「もう四十年以上もやっていますからね」

」
「ピーラーにテープが巻いてありますが?」
「これは皮を薄くむくための工夫です」

「皮も干してありますね」
「皮は漬物に入れると甘くておいしいですよ」

皮むきの終わった柿は洗いたての小いものような体裁で、ポリ製の大きな容器に溜められていく。
「たくさんできましたね。このかごいっぱいをどれぐらいの時間で?」
「これで500個ほど入っていますけど一時間ほどで剥きます。親戚の頼まれ仕事 です。家の柿は少々なのでお使い物にするだけでおしまいですよ」

「干し柿はきれいな色ですね。どれぐらいで古老柿ができますか?」
「風通しの良い竹棚に三週間ほど干して、ムシロに移し替えてまた一週間ほど干 します。それを蓑(ミノ)で振ってやると白い粉がふいて出来上がりです」
「大変な手間がかかりますね」
「天気には気を使いますよ。柿は雨にぬれると黒く変色してしまうのですぐに取り 込みます」
「それで庭先での作業なんですね。お仕事中ほんとうにお邪魔しました」
「いいえ、古老柿が売り出される頃にまた来てくださいよ」
畑の柿も熟れて宇治田原の郷は晩秋に映え、なんとも心癒される時が過ぎて行きました。