30年前のこと。 飲食店主のMさんが無銭飲食の被害にあって110番した。 パトカーが犯人を現行逮捕して私に引き継いだ。 無銭飲食は詐欺である。 Mさんから事情聴取し、被害届の署名を求めたところ署名を嫌がるのである。 以下はその問答である。 Mさん .... 「苗字だけでは駄目か?」 私 .... 「署名は戸籍上の姓名です。名前はあるんでしょう」 Mさん .... 「そら あるわいな。言いたくないんや」 私 .... 「そら 又 どうしてです? まさか指名手配とか・・」 Mさん .... 「そんなん違う。名前言うたら笑うやろ」 私 .... 「なんで 笑うんです?」 Mさん .... 「笑わへんな!」 私 .... 「笑いません」 Mさん .... 「名は ごんべい じゃ。」 私 .... 「ごんべい? 権兵衛が種まきゃ~ の ごんべい? 」 Mさん .... 「そうや」 Mさんは私の顔の変化を読み取り、「笑ったやないか、だから嫌やったんや」と嘆いた。 Mさんは子供のころから、この名前でからかわれて傷ついていたのだ。 私は深く謝罪して、一件書類を落着させた。 家に帰って一人で笑ってしまった。 Mさん 申し訳ない。 |