民主主義(代表制)の要件としては、代表の選出において民意が十分に反映していることが重要です、勿論民衆は②で述べたように候補者の施政方針を理解し評価する能力を持っていることが前提ですが。
しかし、これが結構難しい。多くの場合、多数決で選出されていますが、これには結構問題があるようです。坂井豊貴の著作「多数決を疑う」(岩波新書)で詳しく論じられています。
候補者が3人あり、
①多数の意見を代表する似た思想を持つ候補者が2人いる場合、票割れを起こして人気のない第3候補が当選することが結構多い。
②一人が強力な後援団体を持っていて、それだけで当選圏内の票が取れる場合、彼がその団体に属さない人から総スカンであっても、満遍なく支持されている他の候補が落選することがある。
①のケースは説明の必要はないでしょう。
②について説明します。
3人の候補者 X、Y、Z に対して21人の有権者に順位を付けて貰い、下記表を得ました。
XYZの順を付けた人が4人、XZYの順の人が4人…ということを示しています。
いわゆる多数決では1位の票数を数えて、8対7対6でXが当選となります。
しかし、これが民意を表している…と云えるのでしょうか。
XよりはYがいいとする人は YZXの7人とZYXの6人です。21人中、13人がXよりはYがいいとしています。同様に13人がXよりはZを選んでいます。すなわちXは最も民意に反している…と云えます。見方によってはXを嫌う人の票がYとZに割れて漁夫の利でXが勝った…とも云えます。候補者が3人以上あるときは、多数決ではこのような問題が時々発生します。2人の時は問題ありません。
上記のデーターから当選者を決める種々の規則が提案されています。
ポルダ・ルール;実際に幾つかの国で実施された方法です。評点として1位に3点を、2位に2点を、3位に1点を付ける方法です。そうするとXの合計はXYZとXZYからそれぞれ3×4点、YZXとZYXからそれぞれ7点と6点点、計37点となります。
同様にしてYは45点、Zは44点となります。したがってYが最高、Xは最低となります。 多数決では最低のXを選んでしまったわけです。
ペア毎の多数決;各ペア毎の多数決で決めます。上記の場合においてXとYの多数決をとってみます。Xを支持するのはXYZとXZYの8人ですが、Yを支持するのはYZXとZYXの13人であり、Yが上位になります。同様にXは8対13でZにも負けます。
坂井豊貴の著作では他の方法も沢山紹介されていますが省略します。これらび依ると、民意を問う手段として多数決には問題があることが判ります。候補者が2人の時は問題はありません。
さて今回の
安保関連法案、あちこちで実施されている世論調査では反対が半数を越えているようです。
自分でよく調べ、よく考えて反対した真っ当な反対意見は尊重されるべきでしょうが、世論調査で反対にまわった人達のかなりの部分は、周囲の勢いに飲まれて、「戦争反対」から先の思考過程をすっ飛ばして「安保関連法案反対」に直結した…と考えられます。法案提案者も戦争反対なのですがね。
このような人達の真っ当でない反対意見までも尊重して民意とすると国政を誤る可能性があります。しかし仮に両者を区分できても後者を削除するのか問題でしょうね。悩ましい所です。
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