正義に関する議論の多くは宗教間で対立のあるものも多い。国民の権利と議論を如何に定義するかを決めるにはこの対立する考えから逃げることなく検討しなければならない。中立の立場はあり得ない…とサンデル教授は主張する。 ①【妊娠中絶】 妊娠中絶は罪のない人間の命を奪うものだから禁止されるべきである。(カトリック教会の主張) 人間の命はいつから始まるのかという道徳的・神学的論議において、法律はどちらの側にも傾くべきではない。女性自身が決めるべきだ。(リベラル派の主張) 後者の主張は少し変である。成長している胎児道徳的に子供と同等であることが真実なら、妊娠中絶は、道徳的には子殺しに等しいことになるのだから、殺人するかどうかは女性に自由に決めさせろ…は問題だ。 さらに政府が中絶の可否を決めない…ということは、受胎の瞬間から胎児は人である…いうカトリック教会の思想を否定することになる。でないと子殺しは自由が…ということになるからだ。中絶を不可とすればカトリックの思想を認めたことになる。 勿論、中絶を禁止すると成長している胎児道徳的に子供と同等である…というカトリックの主張を認めたことになる。 したがって、政府にとって中立な立場は存在し得ない。逃げることなく、決定をすることが必要である。 ②【幹細胞の研究】 受精卵もしくは胚の破壊を伴う。 したがって、妊娠中絶と同じであり、中立はあり得ない。受精卵は人間なのか、人間ではないのか、二つの立場しかなく、中立はあり得ない。 ③【同性婚】 異性同士の結婚は認めるのに、同性婚を認めないのは同性愛の男女に対する不当な差別である…との主張がある。同性婚を認めないとは法の下での平等な権利等を彼らには認めないことになるからである。 国には三つの態度をとり得る。 (a).伝統的方針によって男性と女性の結婚のみを認める。 (b).同性婚と異性婚を男女の結婚と同様に認める。 (c).あらゆる種類の結婚をしないか、その役割を民間団体に委ねる。 いくつかの国、米国のいくつかの州において同性婚は合法化されている。さらに夫婦に準ずる権利を同性カップルにも認めるパートナーシップ法も設定されている。 2003年マサーチュセッツ最高裁判所で行われたグッドリッジ対公衆衛生局の裁判の裁判長マーガレット・マーシャルの判決がある。 差別の禁止と選択の自由という観念に立ち入ることなく同性婚を認めた。 彼女によれば、結婚の目的は生殖ではなく、二人のパートナーの間の独占的愛情関係だ……二人が同性であっても異性であっても。 現在の法律によれば、性交によって子供を妊娠する能力や意図は結婚の認可の必須要件となっていない。死が迫った人、高齢者、一方が囚人の場合、生殖機能に欠陥のある人達にも認められることになっている。 結婚を異性間のみに限るのは「同性間の関係は本質的に不安定で異性間の関係より劣り、尊重に値しないという有害な固定観念にお墨付きを与える。」 どんな人にに結婚の資格があるかを決めるためには、結婚の目的とそれが称える美徳について考え抜かなくてはいけない。そうすることによって我々は論争の的である道徳的領域に入り込む。そこでは、善良な生活をめぐる対立する考え方に中立を保つことは出来ないのである。 マーガレット・マーシャルの判決( Hillary Goodridge Department of Public Health Supreme Judical Court of Massachusetts, 440 Mass 309)の詳細は下記に記載されているようです。私もまだ未読ですが、いずれ…。関心のある人はお先にどうぞ。 http://en.wikipedia.org/wiki/Goodridge_v._Departmen…lic_Health ![]() http://caselaw.findlaw.com/ma-supreme-judicial-cour…47056.html ![]() ………………… これまでのシリーズ一覧 Justice @Michael J Sandel ①http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() 4人の遭難漂流者 Justice @Michael J Sandel ②http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() 肺ガンで儲ける Justice @Michael J Sandel ③http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() ミミズ食べ賃Justice @Michael J Sandel ④http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() ビル・ゲイツのお金を分ける Justice @Michael J Sandel ⑤ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() 自殺幇助 Justice @Michael J Sandel ⑥ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() 徴兵と代理出産Justice @Michael J Sandel ⑦ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() イマニエル・カントの思想 Justice @Michael J Sandel ⑧ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() カントの思想(続) Justice @Michael J Sandel ⑨ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() 公平な社会 Justice @Michael J Sandel ⑩ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() 格差の是正 Justice @Michael J Sandel ⑪ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() ゴルフの本質 Justice @Michael J Sandel ⑫ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() 目的・美徳・名誉による正義の評価 Justice @Michael J Sandel ⑬ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() 先祖の罪を贖うJustice @Michael J Sandel ⑭ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() 同意しなくても課せられる責任 Justice @Michael J Sandel⑮ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() 国家・仲間・家族への愛と債務と責任 Justice @Michael J Sandel⑯ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() 政治と宗教についてのケネディとオバマの相違 Justice @Michael J Sandel⑰ http://www.sns.ochatt.jp/modules/d/diary_view.phtml…=&l=30 ![]() |