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2012年01月12日(木) 
5.心豊かに生きる ~五感の質屋~

   最後に、一つの比喩として、あるお話をしたいと思います。

   あるところに男がおりました。その男は5年前に奥様を病気で亡くし、男手一つでお嬢さんを育てていました。可愛い、一人しかいない娘さんです。男は、大事に、大事にその娘さんを育てておりました。

   このお嬢さんが12歳の時、体調不良を訴えまして、「お父さん、お腹が痛いんです」と言います。これは大変だ、病院へ行って検査して診てもらおう、ということで、娘を病院に連れていってやりました。そして検査を受けて、診察を受けます。

   しかし、お医者さんは首をかしげまして、不思議な病気だなと思ったんでしょうか。とりあえず検査の結果が出るまで待ってください、こちらからご連絡しますと言いました。とりあえず、痛み止めだけお出ししておきますから、しばらく様子を見てくださいと言われて、二人は帰ったのです。

   一週間程しますと、病院からお父さんに電話がかかってきまして、娘さんの病気の件でお話があります、お父さんだけ来てください、と言う。ご本人は結構です、というのです。不思議なことがあるものだと思って、お父さんが一人で病院へ行きますと、担当の医師が、「お嬢さんは非常に難病でして、現代ではまだ治療法が開発されておりません。そして、薬も開発されておりません。ですから、このままいきますと、あと一年しか生きられません」と、こう言ったんです。

   お父さん、悲しみました。奥様もいない。最愛の一人娘も、後一年しか生きられない。もう本当に頭が真っ白になると言いますか、茫然自失をいたしました。

   そして、病院からの帰り道、とぼとぼと街頭を歩いておりますと、街角に電柱があり、そこにポスターが張ってあるのに何げなく目が止まったのです。そのポスターにはこう書いてありました。
「あなたの悩みを何でも解決します」
「すごいな。これは何かの新興宗教の宣伝文句かな」と思ったのですが、その広告主のところに目をやると、意外な名前が出ていました。「五感の質屋」と書いてあるのです。「へえ、質屋さんがなぜこんなに悩みを解決してくれるんだろう」。それも「五感」と書いてあります。「正常な質屋じゃないな」。しかし、お父さんはとにかく藁にもすがる思いで、ポスターの下に書いてあった住所を頼りにそのお店を訪ねていくのです。

   書いてあった住所のところへ行きますと、そこに小さな質屋さんがありました。看板に「五感の質屋」と書いてある。「ああ、ここだ」と思って、暖簾をくぐって中に入りますと、人の良さそうな質屋の主人が迎えました。「いらっしゃい、よくお越しになりました。何でもご相談に乗ります。おっしゃってください」と。余りにも質屋の主人の人柄が良いものですから、男はついほだされてすべてを話しました。

   「実は、私の最愛の娘が難病にかかりまして、あと一年しか生きられないというんです。何とか、命を延ばしてやりたいのです。何とかなりませんでしょうか」。男がそう言いましたら、主人は「できます」と言うのです。「どうしたらできますか」と男は聞きました。「いや、うちは五感の質屋です。あなたがもっている五つの感覚、要するに、眼が色を捉える、これを視覚と言うでしょう。一つの感覚です。そして耳が声を捉える、これを聴覚と言います。鼻が香りを嗅ぐ、これを嗅覚と言います。舌が味を味わう、これを味覚と言います。身体が接触し、暑い、寒い、痛い、かゆい、あるいは心地良いと感じる、これを触覚と言います。この五つを五感と言いますね。この五つの感覚のうち、一つを質入れしてくだされば、娘さんの命を五年延ばすことができます」と言うのです。

   半信半疑でございましたが、他にすがるものがないものですから、「是非、お願いいたします。できれば娘に、青春時代を謳歌させてやりたい。後10年。22歳まで生かしてやりたいんです。私は、そのためには二つの感覚を失っても構いません。どうかお願いします」と男が言いましたら、質屋の主人が、「分かりました。では、その二つの感覚を質入れますと、あなたは今日からもうその感覚がなくなりますよ、それでもいいんですね」と念を押しました。男は、「結構です、お願いいたします」と答えました。

   「じゃあ、その五つの感覚のうちの何を質入れされますか」と訊ねられると、男は一生懸命考えました。そして、思いました。「そうだ、味覚を質入れしよう。砂を噛む思いでご飯を食べても死にはしない。とにかく、食べればいいんだ。味覚を質入れしよう。もう一つは、時々風邪を引いたら、鼻が詰まって香りが嗅げなくなることがある。しかし命に別状はない。そうだ嗅覚を質入れしよう」ということで、この二つを質入れする条件で、娘さんの命を10年延ばしてもらうことになったのです。

   その日から、その男の嗅覚と味覚はなくなってしまいました。その代わり、お嬢さんはどんどんと元気に成長していくわけです。これには病院の医師も驚きまして、なぜこうなるのか分からないという状況でした。

   やがて娘さんが成人し、21歳になりました。ある日、お父さんにこう言ったのです。「お父さん、私、好きな人ができたの。今度、連れてくるから会ってくださいね」。お父さんは大喜びしましたが、娘の命は22歳までですから、後一年でしょう。どうしようかと思ったのですが、「ああいいよ、連れてらっしゃい。会おう」と言いました。

   次の日曜日、お嬢さんが好きなボーイフレンドを連れて挨拶に来ました。お父さんはそのボーイフレンドに会いました。非常に立派な青年です。「この青年なら、娘を託せられる」。そう思いまして、お父さんは喜んで「どうか娘をよろしくお願いします。どうか早く結婚して世帯をもってください」と言いました。娘さんは22歳の時には結婚して世帯をもちました。

   娘は22歳になった。お父さんは娘のところへ行って申しました。「おまえは好きな人ができたから、これから先は、彼と一緒に自分たちの幸せを考えて生きなさい。お父さんは、これからしばらく世界旅行に出る。長い旅になるから、音信が不通になるかもしれない。しかしお父さんのことは考えなくていいから、自分の幸せだけを考えなさい」。そう言って、お父さんは娘と別れてすぐさま質屋さんに行くのです。五感の質屋に。

   「お願いでございます。娘はお陰様で22歳まで生きさせていただきました。好きな人ができて、結婚をしました。これで死なすのはかわいそうです。どうか、後10年、生かしてやってください。そのためには、私の残りの三つの感覚の二つを質入れいたします」
と、このように言ったのです。質屋の主人はびっくりしまして、「あなた、五感のうちの四つも質入れしたら、もうあなたは自分自身で生きていくことはできないんですよ」と言いました。「仕方ありません」と、男が言いましたら、質屋の主人が言いました。「私達もあこぎな商売をしているわけではありません。分かりました。あなたのこれからの面倒については、私共は介護施設をもっておりますので、死ぬまでうちの施設で職員がお世話をさせていただきます。だからご安心ください」。

   それからお父さんは四つの感覚を失い、今はもう触覚だけが残っているというわけです。そして介護施設で、毎日、目の見えない不自由さという苦難の中でひっそりと生きていくのでした。しかし、そうした中でも、心に娘さんのことを思うだけで、「ああ、娘が生きてくれている、有り難い。」と感じ、心が満たされるのでした。

   そして5年たったある日のことでございます。その施設の職員の方が、彼の手を取りまして、手のひらに字を書きました。「来客ですよ」。「誰だろう、ここは、誰にも教えてないのに」と思ったのですが、身を乗り出して待っておりますと、来客の人が男の手を取って両手で握りました。柔らかい、優しい、温かい手でした。「ああ、これは娘の手だ」。お父さんは気がつくのです。そして、娘さんがお父さんの手のひらに文字を書きました。

   「お父さん、有り難う。お父さんが自分の五感を失って私の命を長らえさせてくださっていることを知りませんでした。ごめんなさい。でも、お父さん、もう大丈夫です。ようやく私の病気の治療法と薬が開発されました。これからは、そうした治療法で生きていくことができます。今まで、有り難うございました」。

   と文字を書きました。そしてお父さんの胸の中に娘が飛び込んで泣くのです。

   その嗚咽の鼓動が、お父さんの胸に響いてくる。その時、お父さんは思うのです。「ああ、触覚を残しておいてよかった」。感覚が感じられますから。これがなければ、どうにもなりません。

   娘さんが身体を離した時、お父さんの手のひらに、今度は小さな、可愛い、柔らかい手が乗りました。お父さんは気がつきました。「ああ、これは孫ができたんだ。ああ、娘の命を長らえていてよかった」と、お父さんは喜びました。

   これは「五感の質屋」という、仏教に伝わる話でございます。この方のように、自分の感覚を空じて、他の人の幸せのために生きる。こういう生き方もあるのです。これがまさに般若心経に説かれている「無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 無眼界乃至無意識界」という世界なのでございます。

   今日は色々と申し上げたいことがあるのですが、時間がもう余りないようでございますから、この辺で終わりにさせていただきます。またの機会がありましたら、また申し上げたいと思います。

   本日はどうもご清聴有り難うございました。

              (つづく)

   【註】この話し自体は既にアップしていますが、話し口にも意味があるかと、ここでも削除しないでアップしました。(下記前書き参照)

   ………………………………………

心豊かな生き方 般若心経 前書き (SNS内のみ公開)
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心豊かな生き方 般若心経に学ぶ人生の極意 ①
1. 色即是空・空即是色とは
1-1 人生とは何か?
  1-2 人々が追い求める幸せ―――金・財産・名誉・快楽 = 色

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心豊かな生き方 般若心経に学ぶ人生の極意 ②
1. 色即是空・空即是色とは  (つづき)
1-3 六道輪廻―――餓鬼・畜生・修羅・人間界・天上界・地獄の人生 = 空
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心豊かな生き方 般若心経に学ぶ人生の極意 ③
1. 色即是空・空即是色とは  (つづき)
1-4 六道輪廻の人生の後に来るものは皆同じ
1-5 欲望を生む根源―――煩悩(貪欲・瞋恚・愚痴)
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心豊かな生き方 般若心経に学ぶ人生の極意 ④
2.観自在菩薩の三つのお働き
2-1 観自在―――知恵
2-2 観世音―――慈悲
2-3 菩薩―――清浄
2-4 観自在菩薩の三つのお働きと「無我」
2-5 人は無我になれば仏である
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心豊かな生き方 般若心経に学ぶ人生の極意 ⑤
3.五蘊皆空で、さわやかに生きる
3-1 五蘊を空じ、あるがままに生きる
3-2 足るを知る生き方
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心豊かな生き方 般若心経に学ぶ人生の極意 ⑥
4.迷いを空じる生き方
   迷いを生じる根源―――六根と六境と六識で十八界
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閲覧数1,411 カテゴリ日記 コメント2 投稿日時2012/01/12 10:29
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コメント(2)
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  • 2012/01/12 23:40
    korochanさん
    はい、感動です!
    (涙、涙・・・)

    仏教の世界ですね!
    ありがとうございます♪最後は感謝あるのみです・・・
    次項有
  • 2012/01/13 00:44
    鉛筆コッチさん
    korochanさん

    涙を流すことは精神衛生上、非常にいいことだ…と聞いています。

    五感の質屋の主人公のように迷いを空じることが出来れば仏ですね。

    仏教の冠婚葬祭以外の所を見なおしたい…と思います。

    昔、感激したヘッセの「シッダルタ」をもう一度読みたいものだ…と思っています。こちらは人生訓と云うよりは、人と宇宙(世界・自然)の関わり合いの哲学的な考え方が記されていたような記憶。仏教の根源のような…。
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