>ダイヤモンド・オンライン >マスク氏がトランプ氏に “宣戦布告” … それでも日本が「アメリカ党」と連携すべき理由 >白川司によるストーリー・ >13時間・ >マスク氏が新党設立を表明しトランプ大統領に「宣戦布告」 > 2025年7月5日。 > アメリカ独立記念日という象徴的な翌日に、実業家イーロン・マスク氏が「新党の設立」を表明し、政界と経済界に衝撃を与えた。 > 新党の名は「America Party(アメリカ党)」。 > 長年にわたり続いてきたアメリカの二大政党制に風穴を開け、上下両院で少数ながらも戦略的な議席を確保することで、政策決定のキャスティングボートを握ることを狙っている。 > マスク氏は、「共和党か民主党のどちらかに追従するのではなく、国民の真の意思を反映する中間勢力が必要だ」と語っており、自らの新党がその役割を果たせると確信している。 > これはいわばマスク氏の「政治的再起」宣言であり、かつての盟友ドナルド・トランプに対する「宣戦布告」でもある。 > この政治的挑戦は、彼がトランプ政権から実質的に排除されたという背景抜きには語れない。 > トランプ大統領とマスク氏のあいだに何があったのか。 >トランプ政権から排除されたマスク氏 > マスク氏は再選を目指すドナルド・トランプ氏の有力な支援者だった。 > 2024年の大統領選では2億5000万ドル(約370億円)以上を献金し、政権のキーパーソンとして政府に新設されたDOGE(政府効率化省)のトップを務めて辣腕(らつわん)を振るった。 > その手法は行政発想の改革ではありえないほど急進的であり、次々と削減されていく部門と予算に対して怨嗟の声が上がった。 > マスク氏は「影の大統領」とさえ呼ばれ、その影響力は絶大だった。 >これまでのどちらかといえば疎遠だった多くの経済人がマスク氏の元を次々と訪れて、「イーロン・マスク経済圏」ができかねないほどの勢いだった。 > そんな政治的栄華にあったマスク氏に、突如、転落の危機が訪れる。 > 2025年3月20日『ニューヨーク・タイムズ』紙が「マスク氏が米中戦争に関する極秘ブリーフィングを受ける予定」と報じる。 > この報道に民主・共和両党内に動揺が広がり、トランプ大統領とペンタゴンは直ちにこれを否定して火消しを図ったが、マスク氏とトランプ大統領への風当たりはますます強まっていった。 > 官僚機構の改革について大統領からの全権委任に近い形を得ていたとはいえ、選挙で選ばれていない「特別政府職員」にすぎない民間人が、国家最高機密に関与することへの強い批判が噴出した。 >「陰の大統領」が国家安全保障に関わる「表の機密情報」に関わっていたという事実に、アメリカが民主主義国家であることの根幹が揺らいだのである。 > トランプ大統領の元側近で、今も有力なアドバイザーであるスティーブ・バノン氏もこの報道を契機に「マスクの時代は終わった」と断言した。 > トランプ氏は報道を否定しつづけたが、政権内の空気は急速に変化し、マスク氏は以後、政権への関与を大きく後退させた。 >ビジョンが根本的に異なるマスクとバノンの確執 > マスク氏の政権からの追放を語る上で避けて通れないのが、スティーブ・バノン氏との確執である。 > バノン氏は、政治戦略家でありメディア実業家であるが、トランプ大統領が共和党の泡沫(ほうまつ)候補だったときから支え続け、トランプ大統領を誕生させた立て役である。 > トランプ政権一期目では首席戦略官を務め、反グローバリズム・アメリカ第一主義(MAGA)を掲げる保守ポピュリズム路線を主導している。 > また、草の根保守層とのつながりが強く、右派ウェブメディア「ブライトバート・ニュース」の影響力を拡大させたことで知られている。 > バノン氏は一貫して「マスクはグローバリストであり、MAGA(アメリカ第一主義)を理解していない人物だ」と批判してきた。 > 特に象徴的だったのが、H-1Bビザ制度をめぐる対立である。 > マスク氏はテスラやX(旧Twitter)での人材確保のため、高度外国人技術者の受け入れを擁護したが、バノン氏はこれを「庶民の雇用を奪う詐欺制度」と断じた。 > MAGA信奉者のバノン氏は「高度人材などアメリカにたくさんいるのだから、わざわざ外国から呼び寄せる必要などない」という思いから、とにかくアメリカ人が得をする国であるべきだと考え、H-1Bビザへの嫌悪を隠さなかった。 > この勝負は、実際にビジネスパーソンとしてH-1Bの恩恵にあずかっているトランプ大統領が、「認めるべき」と判断してマスク氏の勝利に終わったのだが、両者のあいだには埋めがたい亀裂を生むこととなった。 > 両者はMAGAという同じ旗印のもとにいたが、そのビジョンは根本的に異なっていた。 > 世界トップクラスの富豪であるマスク氏を、バノン氏は「テクノ封建主義の権化」と呼び、トランプ政権に絶対に入れるべきではない存在と見なし、のちのちの禍根になると予言していた。 > そして、その予言は現実のものとなった。 >マスク氏がトランプ政権から離反するきっかけとなった大型法案 > マスク氏がトランプ政権から離反する直接的なきっかけとなったのが、「One Big Beautiful Bill Act(1つの大きく美しい法案)」である。 > この法案はトランプ減税の恒久化に加え、化石燃料や内燃機関を中核とする旧来型産業に手厚い支援を行う一方で、EV支援や再生可能エネルギーへの助成を大幅に削減する内容だった。 > マスク氏はこれに強く反発し、「未来産業を切り捨て、過去にすがる愚策だ」と激しく非難した。 > 特にEV市場を支えるカーボンクレジット制度の廃止が示唆されたことは、テスラの根幹を揺るがすものであり、「企業存亡の危機」に等しかった。 > 実際、テスラの利益の約3割はカーボンクレジット販売によるものであり、補助金や排出権制度の廃止は経営基盤そのものを破壊しかねないものだった。 > これは「今後マスク氏の提言する政策を受け入れない」ことを示し、トランプ大統領はマスク氏に引導を渡すこととなった。 > マスク氏はその直後からこの法案を苛烈(かれつ)に批判した。 >「過去の産業にばらまきながら、未来の産業を根本的に傷つける」「この法案はアメリカの何百万人もの雇用を破壊し、国家に計り知れない戦略的ダメージを与えるだろう」などと述べた。 > さらに「これは政治的自殺だ」として、法案を丸のみした共和党も批判している。 > マスク氏が政界に舞い戻り、新党設立という恐慌手段に訴えた理由は、自分がゼロから育て上げて、売り上げが落ちるのも厭わずトランプ氏を応援しつづけて守ってきたEVの雄テスラが、この法案によって窒息させられそうになっていることに対するカウンターだった。 >マスク氏が新党構想で描く過去に例のない戦略とは > マスク氏が大胆な行動に出たことはともかく、この新党構想が現実味を持つかどうかには議論の余地がある。 > アメリカの選挙制度は「勝者総取り(winner-takes-all)」であり、第三政党にはきわめて厳しい環境が待ち構えている。 >これは日本の小選挙区において「死に票」が大きく出ることを考えてもらえればわかるだろう。 > テキサスの実業家で大富豪だったロス・ペロー氏が、1992年に「改革党」を率いて大統領選に出馬し、得票率19%を記録した。だが、選挙人は一人も獲得できなかった。 > また、それなりの知名度を持っているグリーン党やリバタリアン党も今のところ全米的な影響力を持つには至っていない。 > したがって、いかにマスク氏であろうと、アメリカ党が上下院で複数議席をとるというのは至難の業である。 > もちろんマスク氏もこの制度上の壁は理解しており、「全国制覇ではなく、数議席でも政策決定に関与できればよい」という戦略を描いている。 > マスク氏が戦うフィールドは「州」ではなく「ネット」である。 >オンラインの支持基盤を活用し、選挙区を絞って突破口を開こうとしている。 > この戦略は過去には例がなく、日本の選挙でもネットが大きな力となって新たな国政政党が次々と生まれている現状を考えると、「また失敗に終わる」と簡単に断じることはできないだろう。 >「マスク党」が目指すのは政党ではなく圧力装置か > マスク氏の意図が「アメリカ党を大政党に育てること」ではなく、「特定法案の採決において決定力を持つ少数勢力として機能すること」にあるならば、下院での数議席の獲得でも、民主党と共和党双方に政策修正や妥協を迫ることが可能になる。 > また、トランプ政権の中でもマスク氏の影響は一部に残っており、ビットコイン政策や台湾外交の抑制的姿勢などには、いまだにマスク氏の意向が色濃く反映されている。 > トランプ氏はこれまで、教条的なバノン氏と現実的なマスク氏の意見に揺れ動くことが多かった。 >また、バノン政策がうまくいかなそうなときは、すぐにマスク政策に切り替えることも少なくなかった。 > つまり、トランプ大統領はマスク氏を追放したものの、マスク氏の考え方自体を全否定したわけではない。 > ただし、マスク氏がアメリカ国内で大人気かというと、そうは言いがたいところもある。 > とくに今春のウィスコンシン州最高裁判事選では、官僚機構改革で急進的に合理化を進めたマスク氏への反発が徒となっている。 > これは中間選挙の区割りにも関わる重要な選挙だったため、マスク氏は保守派候補のブラッド・シメル氏を支援し、自らも300万ドル(約4億4000万円)以上を投じた。 >だが、結局、リベラル派のスーザン・クロフォード氏に10ポイント差で大敗を喫している。 > SNSなどでは大人気のマスク氏だが、世界トップクラスの大富豪が金に任せて選挙運動を繰り広げていく様子は、庶民には必ずしも好印象を与えなかったようだ。 > 民主党側も「マスク氏不人気」を利用して、「People v. Musk(人民 vs. マスク)」という対立軸を強調して、思いがけないほどの差で勝利を収めることになった。 > このことは、マスク氏の急進的な改革路線に対する国民の反発を示すシグナルとなり、官僚機構におけるトランプ改革に急ブレーキがかかった。 > ただ、マスク氏の新党はあくまでネット世論に訴えるものであり、Xを保持するマスク氏はその点で圧倒的な強みがある。 >もし下院で数議席を獲得するようなことになれば、共和党と民主党で拮抗(きっこう)する現状では、マスク氏の影響力は無視できないものになるはずだ。 > そういう意味では、マスク氏の目指す党は政党というより圧力団体に近いものなのかもしれない。 >トランプ政権に翻弄される日本がマスク氏と連携すべき理由 > 今後、マスク氏がどのような候補者を擁立し、どの政策を前面に出すのかが注目される。 > イーロン・マスクという存在は、もはや単なる企業家の枠では収まらないものになっている。 > 考えてみると、政権との対立、MAGA運動内の思想対立、テクノロジーと国家主義の緊張関係は、トランプ大統領とマスク氏だけの話ではなく、今後も永く続いていくものである。
そうですね。
> 問題は「グローバル資本とアメリカ中間層の乖離(かいり)」という根本的な問題に取り組む限り、そこには、これまでアメリカ経済を支えてきたイノベーションや金融主義にブレーキがかかることである。 > マスク氏の真の狙いは、もちろん政権奪取などではない。 >議会における審議と採決で「数票の力」を持ち、既存政党の政策を動かすことで、「反イノベーション」や「反金融主義」の行き過ぎを阻止して、自らの産業的利益と理念を守ることである。 > 2026年の中間選挙でアメリカ党がどのような戦果を挙げるかは注目に値する。 >現状では議席をとるのは難しいだろうが、もし1議席でもとれたら、今後のアメリカ政治の地図は大きく塗り替えられるかもしれない。 > 日本が自国の国益を真に考えるのならば、トランプ政権に一方的に翻弄(ほんろう)されるだけでなく、マスク氏とも連携し、日米テクノロジー協定のような枠組みを立ち上げる必要がある。
そうですね。
> 日本にとって、「デジタル赤字」の是正と次世代産業の育成は、喫緊かつ長期的に最重要な課題である。 >マスク氏と協調体制を築くことは、日本が反転攻勢に出るための1つの有力な選択肢だろう。
そうですね。
> トランプ政権との関係を築くことは一義的に重要であるが、トランプ大統領には任期がある。 >日本の課題はその後も続いていくのであるから、マスク氏のような人物の力を借りることは、その突破口となりうる。
そうですね。
>(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)
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