「この世界の片隅に」 片淵須直監督アニメ作品
我が息子の推奨に背中を押されて このアニメ映画を桂川イオンシネマまで観に行きました。上映館が全国63館しかなく、京都では、ここだけ。原作は、こうの史代さん。
軍事港呉市が舞台。物語は、一貫して空想家でのんびりキャラの主人公すずの目を通して語られます。私は、すずにすっかり同化していたので 彼女が平凡な日常から むごたらしい戦争に翻弄されるようになるまで 戦争の足音が大きくなるのに 気付かずにいたような気がします。はっと気づいたときには、すぐ傍に爆弾が落ちて 右腕を吹き飛ばされ、一緒にいた姪っ子の命も奪われていて、その落差には 心をえぐられる思いでした。
主人公すずの吹き替えをやったのが、元能年玲奈こと のん。彼女の広島弁とのんびりキャラは、秀逸でした。コトリンコの挿入歌もか細くやさしい旋律で すずの気持ちを代弁していました。音響も 繊細なこだわりを感じました。専門的なことは わかりませんが、音質がやわらかく 戦争物にありがちな耳障りな攻撃性を感じませんでした。印象的だったのは、爆撃の音が 花火の音のように やさしく聴こえたことです。また、爆弾の煙がカラフルに描かれていたのにも びっくりしました。絵画好きのすずの心の目を通していたからでしょう。
戦争とは、平凡な日常と切り離された過去の「異質な」ものでなく、ふつうの人間がふつうに生きる権利を奪われることなんだって 淡々と知らされた感じです。エンディングロールで、参考資料が出てきたのですが、「暮らしの手帖」が目に留まりました。朝ドラのトト姉ちゃんと同じテイストだなと思いました。
この作品は、クラウドファンディングで寄付を募り、海外15か国へも発信しようとしています。あっという間に三千万円が集まったそうです。会場も平日にも拘わらず、8割がたの入場者数でした。
関西では、ほとんど この映画の話題を聞くことがないのに よく これだけ 人が集まったものだと びっくりしました。
多くのひとに観てほしい作品です。エンディングロールの最後に右腕が 振られていたのですが、すずの右腕が 「映画を観においで」と誘っているように 感じました。